From:高名一成
先日、ある先生からこんな話を聞きました。
「3年かけて、やっと一人前に育ったと思ったんです。これからこの子に任せられる、って。そうしたら『辞めます』って言われて…」
その少し前には、別のスタッフが繁忙期の直前に、LINE一本で辞めていったそうです。
その話を聞きながら、笑っていいのか、慰めればいいのか分からなくて、お互いちょっと苦い顔になりました。
先生、あはは、と力なく笑ってましたけど、目は全然笑ってなかったんですよね。
時間とお金をかけて採用して、何年もかけて育てて、ようやく戦力になったと思った瞬間に辞められる…
また求人を出して、また一から育て直す…
この繰り返しに、正直うんざりしている…
これは人材でよくある悩みです。
人を増やすほど苦しくなるという矛盾
ここで一つ、考えてもらいたいことがあります。
そもそも、なぜ人を採用しようと思うのか。
事務所を拡大したい、組織をつくりたい、任せられる右腕がほしい。
理由はいろいろあると思います。
でも、たいていは「仕事が増えたから」じゃないでしょうか。
顧問先が増えて、今のメンバーだけでは回らなくなってだから人を雇う、、、といった感じじゃないでしょうか?
これは、ごく自然な流れだと思います。
ところが、ここに落とし穴があります。
顧問先を増やす → 忙しくなる → 人を採る → 育てる → 辞められる → また採る。
この流れをよく見てください。
スタート地点はいつも「顧問先の数を増やすこと」になっています。
数が増えるから忙しくなって、人を採る。
でも、人を採れば固定費が増えます。
その固定費をまかなうために、また数を増やさないといけなくなる。
数を増やせばまた忙しくなって、人を採って、固定費が増えて、それを埋めるためにまた数を増やす。
気づけば、走っても走っても同じ場所にいるような感覚になります。
育てた職員が辞めていく構造的な理由
もちろん、採用のやり方やマッチングを工夫する余地はあります。
ただ、それ以前に押さえておきたいことがあります。
職員が辞める引き金は「忙しいのに報われない」と「ここにいても成長できない」の2つが大きいと言われます。
そして、この2つに敏感なのは、たいてい優秀な人なんですよね。
なぜなら、顧問料の単価が低いまま件数を増やしていくと、一人あたりの担当件数がどんどん増えていくからです。
記帳や申告をさばくだけで精一杯になる。
付加価値の高い仕事に手を伸ばす余裕がなくなる。
給料も上げられない。
仕事の幅も広がらないから、成長の実感も持てない。
付加価値の高い仕事をやりたい、もっと成長したい。
そう思っている人ほど、能力も意欲も高くて、本来なら事務所の将来を担っていくはずの人なんですよね。
その人ほど「ここにいても、さばくだけで成長できない」と早く気づいてしまいます。
だから、他と違うことに挑戦できて、成長を実感できる場所へ移っていく。
つまり、辞められるのは、その人の問題でも、あなたの人柄の問題でもないことが多いんです。
あまり見られていない観点ですが「数を増やす経営」そのものが、一番残ってほしい人から先に消耗させ、伸びる場所を奪っている、ということも見逃せないポイントです。
他と違う存在になると人もラクになる
では、どうすればいいのか。
ヒントは「数」ではなく「違い」にあります。
そもそも、1件あたりの単価が上がらない本当の理由は、他の事務所と同じに見られているからです。
同じに見えるものなら、お客さんは安いほうを選びます。
だから価格で比べられて、単価が上がりません。
逆に言えば、他と違う存在になれたら、価格で比べられなくなります。
「違うことって言われても、税務でそんなに差なんてつかないですよ」
そう思いますよね。
ふつうはそう感じると思います。
ただ、ここで言う「違い」は、税務の品質を上げることではありません。
顧問先の社長が、お金を払ってでも解決したいと思っている悩みに応えられるかどうか、です。
社長が本当に困っているのは、売上や資金繰り、人のことだったりします。
そこに一歩踏み込んで力になれたら「どこの事務所も同じ」という見られ方から抜け出すことができます。
価格ではなく、あなただからお願いしたい、に変わっていきます。
そして、こういう付加価値の高い仕事に取り組み始めると、職員の側も変わります。
さばくだけの毎日ではなく、社長の役に立つ手応えのある仕事が増えていきます。
成長意欲のある優秀な人ほど、そういう環境にいたいと思うものです。
そうなると、おもしろいことが起きます。
優秀な人が辞めていく事務所ではなく、優秀な人が「ここで働きたい」と集まってくる事務所に変わっていくようになるでしょう。
実際、私たちのクライアントでも、他と違うポジションを築けている事務所ほど、人材採用にもライバルより優位に立てているケースが多いです。
まず見直すべきは採用より”違い”かもしれない
採用がうまくいかない。育ててもすぐ辞める。
これは多くの先生に共通する深い悩みです。
でも、その入り口で「もっといい人を採ろう」と考えるだけだと、同じループから抜け出せないかもしれません。
優秀な人が辞めていくのは、採用の腕が足りないからではなく「数を増やす経営」が人を消耗させ、成長の機会を奪っているという視点も忘れてはいけません。
だとしたら、まず見直すべきは採用のやり方ではなく「他とどう違う事務所になるか」のほうかもしれません。
あなたの事務所は、たくさんいる事務所の一つに見られていませんか?
それとも、この先生にお願いしたい、と選ばれる存在になっているでしょうか?
採用の悩みの本当の出口は、案外、「違い」をつくることの先にあるのかもしれません。
-高名一成
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