From:高名一成
先日、家の中を整理していたら、昔の写真が束になって出てきました。
そういえば昔は、写真を撮るのもひと仕事でしたよね。
カメラにフィルムを入れて、撮り終えたら現像に出して出来上がるまで数日待ちました。
今はスマホでパシャッと撮って、その場ですぐ見られるのに。
便利になったなぁと、しみじみ思います。
フィルムで写真を撮っていたあの頃の代表格はコダックでした。
世界中どこの街にもコダックの黄色い看板があって、フィルムといえばコダックという時代が長く続きました。
そのコダックが、今どうなっているか。
2012年に倒産しています。
かたや倒産、かたや過去最高益
しかも、皮肉な話があります。
世界で最初にデジタルカメラを作ったのは、ほかでもないコダックなんです。
1975年のことでした。
自分たちでデジカメを生み出しておきながら、コダックはそれを売りませんでした。
デジカメを売るということは主力のフィルム事業を否定したり潰すようなものになるわけです。
コダックはフィルムが売れなくなるのを恐れて、本格的には売り出しませんでした。
これがイノベーションのジレンマというやつです。
そうしているうちに、デジカメの波が世界を飲み込んで、フィルムと一緒にコダックも沈んでいきました。
同じ時代に、もう1社ありました。
同じ「フィルムの会社」で、同じデジカメの逆風をまともに受けた会社です。
富士フイルムです。
こちらは、潰れませんでした。
それどころか、過去最高益まで叩き出して、今も成長を続けています。
化粧品のアスタリフト、聞いたことがある方も多いと思いますが、あれは富士フイルムです。
ほかにも、医療やヘルスケアの分野で伸びています。
同じフィルム屋なのに、かたや倒産、かたや復活。
この差は、どこから生まれたんでしょうか?
富士フイルムは、
ビジネスの「抽象度」を一段上げた
富士フイルムは、自分たちのビジネスの捉え方を一段だけ高いところに引き上げました。
「うちはフィルムを売る会社だ」ではなく「うちは、写真を美しく残すための化学の技術を持った会社だ」と捉え直したんです。
ビジネスの見方を、一つ大きなくくりで考える。
これは抽象度を上げたということです。
フィルムというのは、ものすごく薄い膜の上に化学物質を精密に塗り重ねてできています。
色を美しく保つために、酸化を防ぐ技術も何十年もかけて磨いてきました。
「フィルム」で自社を定義していたらフィルムが消えれば終わりです。
でも「化学の技術」まで抽象度を上げて捉えれば、その技術は、肌の酸化(老化)を防ぐ化粧品にも医療にも活かせます。
実際、富士フイルムはそうやって、フィルムで培った技術を化粧品という新しい商品に活かしました。
一方のコダックは、最後まで「うちの商品はフィルムだ」と定義し続けました。
だから、フィルムという商品が消えたとき、一緒に消えるしかありませんでした。
分かれ目は、技術力でも資金力でもありません。
自分のビジネスの抽象度を一段上げて捉え直せたかどうか、その一点でした。
今の仕事が頭打ちでも、
いきなり新規客を狙うのは危ない
どんな商品も事業も、売れ方は同じ形をたどります。
成長カーブと呼ばれるものです。
最初はあまり売れず、あるとき一気に広がって、やがて行き渡って頭打ちになり、最後は落ちていきます。
グラフにするとゆるやかなS字の山になるのでS字カーブとも呼ばれています。
フィルムも、あれだけ世界を席巻して、それでも山を下りました。
今の商品が価格競争になってきたり、伸び代が見えなくなってきたら、次の商品や事業が必要になります。
ただ、ここで気をつけたいことがあります。
まったくゼロからの新事業は、リスクが高いということです。
なぜなら、新しい事業は、たいてい「新しいお客さん」に向けたものになるから。
会ったこともない新規のお客さんに、売れるかどうかもわからない新商品を売る。
そんなの難しいに決まってます。
抽象度を上げると、
既存客にやれることが見つかる
ですから、いきなり新事業に飛ぶ前に、まず自分のビジネスの抽象度を一段上げてみるといいと思います。
富士フイルムがやったように。
「フィルムの会社」から「美しさを扱う技術の会社」へ。
くくりを一つ大きくすると、今ある強みを別の形で活かす道が見えてきます。
たとえば化粧品なら「写真に、もっと綺麗に写れますよ」と言えば、フィルムを買ってくれていた既存のお客さんに、そのままアプローチできます。
写真をきれいに残したい人は、自分もきれいに写りたい人でもあるからです。
そして大事なのは、その多くが、今いるお客さんに向けてできることだということです。
イチから新しい客を探すよりも、今いるお客さんに新しい価値を届けることからやるべきです。
既存客なので何を求めているか、何に困っているか分かります。
これはつまり、すでにニーズがあるものを自分たちの新しい価値に出来るということ。
新規と違って、売れることが前提のビジネスになるんです。
どっちが勝算が高いかは一目瞭然ですよね。
税理士なら「税務」から「経営」へ
抽象度を高める
これは、税理士事務所にもそのまま当てはまります。
今、あなたが自分の仕事を「税務を提供する仕事」と捉えていると、やれることは税務の中だけになります。
そして税務という商品は、成長カーブでいえば、すでに「成熟期」に入っています。
世の中に行き渡って、みんなが当たり前に使うようになり、あとは価格で比べられていきます。
フィルムが山を下りはじめたのと、同じことが起きています。
この先どうなっていくかは、みなさんの方がよくご存知だと思います。
でも、抽象度を一段上げて「顧問先の経営を見る仕事」と捉え直したら、どうでしょうか。
やれることが、一気に広がります。
しかも、新しいお客さんを取りに行く必要はありません。
やれることが増えるのは、今の顧問先に対してです。
あなたは毎月、顧問先の数字を誰よりも早く正確に見ています。
お金の中身を全部知られているからこそ、社長が本音で相談できる、数少ない相手にもなっています。
これは、他の誰も簡単には持てない、あなたの強みです。
その足場の上で「税務」から「経営」へ視点を上げれば、売上や資金繰りやお金の悩みを一緒に考える、という新しい価値を今いる顧問先に届けられます。
富士フイルムが、フィルムの技術を化粧品に活かしたように。
今の仕事が価格競争や頭打ちに見えるとき。
いきなり新しい客や新しい商品に飛びつく前にやってほしいことがあります。
まず、自分の仕事の抽象度を一段上げて「税務を提供する」から「顧問先の経営を見る」へと、捉え直してみることです。
くくりを一つ大きくして捉え直すと、今いる顧問先に対してやれることがきっと見つかります。
そして、動くなら今です。
先に動いた人には、かならずアドバンテージがありますから。
-高名一成
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