From:高名一成
専門家の仕事は、お客さんの悩みを解決することではありません。
お客さんの悩みを解決したら、そのお客さんは喜びます。
でも、お客さんが本当に良くなるかどうかは、また別の話だからです。
例えば、咳がずっと続いて病院に行ったとします。
「咳が止まらなくて、咳止め薬をもらえますか」とお医者さんに言いますよね。
咳止め薬を渡されれば、あなたの悩みは解決し、あなたは満足するはずです。
でもお医者さんは、その前に診察をします。
いつから続いているのか、熱はないか、痰は出るか、と1つずつ確かめていきます。
なぜなら、咳の奥に、別の問題が隠れているかもしれないからです。
もし肺炎だったとしたら、咳止め薬で症状を抑えているうちに病状は悪化していきます。
喘息だったとしたら、咳止めではなく、気道の炎症を抑える薬が必要です。
だからお医者さんは「咳を止めたい」という悩みをそのまま叶えるのではなく、本当の問題を診断してから処方します。
「悩み」と「問題」は、別物です
「悩み」は、お客さんが「これを解決してほしい」と口にすること。
さっきの「咳を止めたい」がそれです。
「問題」は、本当に解決しないとお客さんが良くならないこと。
さっきの「肺炎」や「喘息」がそれにあたります。
やっかいなのは、悩みをそのまま叶えると、お客さんはとりあえず喜ぶということです。
咳止め薬をもらえれば、その場は楽になりますからね。
でも、喜んでもらえることと、本当に良くなることは、必ずしも同じではありません。
むしろ、悩みをそのまま叶えたせいで、もっと悪くなってしまうことすらあります。
「集客したい」をそのまま叶えると、どうなるか
これを僕たちのビジネスで考えたとき、例えば、顧問先の社長がこう言ったとします。
「売上を増やしたいんだけど、新規のお客さんがなかなか集まらなくて」
これは社長の「悩み」ですよね。
ここで社長が納得する集客のやり方を教えてあげれば、社長は喜ぶでしょう。
求めていたものが、そのまま手に入るわけですから。
ただ、それで本当に会社が良くなるかというと話は別です。
仮に集客がうまくいって新規が増えて売上が増えても、儲かるかどうかは別です。
新規の獲得は、客単価が低いうえに広告費と時間がかかるため、基本的には儲かりません。
売上が増えたけど、前より資金繰りが悪くなったとか、前より苦しくなっていた、ということがよく起こります。
集客という悩みを叶えたのに、会社はかえって悪くなってしまうわけです。
お医者さんのように、まず診断しましょう
お医者さんが咳止めを渡す前に診察をするように、専門家はお客さんの悩みをそのまま叶えるのではなく背景をヒアリングすることが重要です。
「なぜ集客したいのか」
「なぜ売上を増やしたいのか」
「今、会社はどんな状況なのか」
そうやって話を掘っていくと、本当に解決すべき問題が見えてきます。
もしかしたら、新規を増やすことではなく、いまいる既存のお客さんの単価を上げることのほうが、その会社にはずっといいかもしれません。
逆に新規を増やすと悪くなるからやっちゃダメだということが見えてくるわけです。
そこまで分かって初めて、その会社に合った打ち手を処方できます。
これが、悩みをそのまま叶える人と、問題を解決できる専門家の違いです。
お客さんは、自分の悩みは言葉にできます。
でも、その奥にある問題までは、たいてい自分では分かりません。
だからこそ、それを見つけてあげる人が必要なんです。
問題を見つけるのは専門家しかできませんし、それがお客さんにとっての付加価値になります。
数字を全部見ている税理士は、診察ができる
そして、この診察がもっともやりやすい立場にいるのが、税理士であるあなたじゃないでしょうか。
考えてみてください。
社長の会社の数字を、毎月、何年分も見ている人が、ほかにいるでしょうか。
売上の推移も、利益の構造も、どこにお金が消えているのかも、社長以上に分かっている。
これ以上ない診察の材料が、あなたの手元にはあります。
例えば社長が「集客して売上を増やしたい」と言ったとき、月次の数字を見ると、売上は増えているのに利益は増えていないということがあります。
経費や原価の使い方に問題がないのであれば、本当の問題は多分売上の増やし方のほうにあります。
安く数を取る増やし方を続けている限り、いくら売上が伸びても利益は残らないからです。
こうした見立ては、その会社の数字を毎月見ているあなただからこそできることです。
悩みを問題に翻訳する!
次の巡回監査で社長が何か悩みを口にしたら、すぐにその場で叶えようとせず、一度立ち止まってみてもらいたいんです。
「それは、なぜそう思うんですか?」
「今、会社はどんな状況なんですか?」
と、お医者さんのように診察してみましょう。
社長が語る悩みを、本当に解決すべき問題に翻訳していくんです。
それができたとき、社長は本当にやるべき課題に取り組むことができて、あなたにサポートを求めてくるようになるでしょう。
咳止め薬を出すだけの先生ではなく、本当の問題を一緒に治してくれる先生に変わる瞬間です。
AI時代のいま、そういう存在はこれからますます社長から必要とされていきます。
-高名一成
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